働いた経験のない若者にとって、ファーストフード店は、短時間の就労、アルバイトから入れるなど、比較的、垣根の低い職場となっています。そこで、実際にこのようなファーストフード店で働いている人のお話を聞き、理解を深めてもらおうと、モスバーガー庄内余目店のI店長とEさん、同店を運営する(株)三栄本社サブマネージャーのAさんの3名を講師にお招きした「職業人による講話」を企画。さらに「職場見学会」として同店の店内や厨房、休憩室などを見学させていただきました。
講話の後、7名の参加者から寄せられた「仕事をしていて辛いことはないか」など、多くの質問にも、講師の方々に一つ一つ丁寧に本音で答えていただきました。また、職場見学会では、ハンバーガーと飲み物をご馳走になりながら、掃除が行き届いた店内や、実際の接客の様子も間近に見せていただきました。
他者と関わることへの苦手意識もあり、ほとんどの参加者は、接客の仕事は無理だと話していましたが、講話を聞き、職場を見学した後には、ほとんどの参加者がモスバーガーでの短時間・短期間お仕事体験を希望し、この中から1名が正式就労に至っています。
■さりげないサービス。カッコよさにあこがれて
庄内町文化創造館響ホール研修室で行われた「職業人による講話」。トップバターは、モスバーガーで働き4年目になるというEさんです。「さりげない気配り、接客に感動したことがきっかけ」と話すEさんは、「今度は店員として自分がその感動をお客様に感じてほしい」と思い、働くことによって「自分も成長できた」と感じている一人です。
「仙台に住んでいた頃、客の一人としてモスバーガーの接客に親しみを感じ、『こういうところで働けたらいいな』と思い、働き始めました。その後、主人の転勤で出身地の庄内に戻り、現在はモスバーガー庄内余目店で働いています。最初は慣れない仕事に戸惑いを感じることもありましたが、いろいろ教わりながら、自分が感じた感動をお客様にも感じてもらいたいと思っている毎日です。
モスバーガーの接客で一番に感動したのは、気づかいの細やかさです。例えば、床に落ちているゴミをさりげなく拾う立ち居振る舞い。水が欲しいと思い、ふと顔を上げると店員とすぐに目が合うことなど、全てがさりげなく、カッコいいなと思いました。お客様をじっと見続けているのではなく、必要な時に目が合う。いつも気にしてくれているという安心感。そんなちょっとしたことで感動って生まれるんだ、接客って深いなと思いました。私もそんなふうにさりげなく、いつもお客様のために。これが目標です。
私にとって働くことは、生活のためでもあり、自分を豊かにすること。そして、少しは社会に役立っているのかなという思いもあります。人は、ずっと人と関わっていかなければなりませんが、一緒に働く仲間やお客様に刺激を受けて自分を成長させていける、そんな楽しい職場で、毎日が充実しています。
先輩として、若い店員にアドバイスする立場にもなりましたが、逆に若い方に教えてもらうことも少なくありません。皆さんそれぞれに良いところがあると思います。力まずに、まずやってみることが一番だと思います」
■元気に「いらっしゃいませ」。高校生の一言が私を変えた
次に、キャリア15年という店長のIさんのお話です。庄内余目店の温かい雰囲気は、I店長の人柄そのもの。いまでは多くの従業員に慕われる頼もしい存在のIさんですが、働き始めの頃は「自分よりも年下の従業員の中で働くことに抵抗があった」など、悩みも多かったそうです。そのIさんが自分を変えるきっかけになったのは、ある高校生の一言でした。
「初めの3ヶ月間は食器洗い。レジで楽しそうに接客する他の従業員をうらやましく思っていました。しかし、いざ自分がレジの前に立ってみると、『いらっしゃいませ』がうまく言えない。どうしても口ごもってしまう。そんな時、自分よりもずっと年下のアルバイトの高校生に『どうせ言うなら、もっと大きな声で言ってください』と注意され、はたと気付いたんです。それからですね、自分が少しずつ変わったのは。当初は、生活のために仕方なく働いているという感覚でしたが、お金を貰う以上、このままではいけない。お客様にとってはアルバイトの高校生も私も同じ店員、年齢差は関係ない。ちゃんとしなければ。そんなふうに一歩踏み出すことができました。いまでは『自分がされたらうれしいことをお客様に』という心構えで仕事をしています。
私にとって働くことは生活の一部、私自身の一部という感覚です。毎日が新しく、周りのみんなに助けてもらい、自分も成長しているのを感じています。仕事の内容は同じ事の繰り返しですが、何かが違うんですね。いまに満足してしまうと、そこで終り。終わりにしたくない。もっとお客様に喜んでいただきたい。もっとスタッフに気持ちよく働いてもらいたい。そのためにはどうするか。常にいろんなことを考えています。ハンバーガーは誰がつくっても同じ味ですが、それに何かをプラスするとすれば、お店の雰囲気だと思います。スタッフの元気もご馳走の一つ。スタッフが楽しく働いていれば、お客様にももっと楽しんでもらえるのではないか。そんな雰囲気の店づくりを目指しています」
■諦めないで!可能性は誰にでもある
サブマネージャーのAさんは、庄内地区のモスバーガー3店を統括するお仕事。高校1年の夏休みにモスバーガーでアルバイトを始めて以来、他県の大学に進学してからもアルバイトを続け、卒業後は県内に11店舗を展開する三栄本社に入社されるなど、ずっとモスバーガーに関わっておられます。「初めは欲しいモノを買うためのアルバイトでしたが、お金以上に、店長やスタッフの皆さんと一緒に働いているのが楽しくなって…」。
そんなAさんの講話は、ノミという一風変わった題材に始まりました。参加者を勇気付ける内容で、とても印象深く参加者の心に刻まれました。
「これは、ある居酒屋チェーン店の経営者が語っていた話です。ノミは小さい体ながら1メートルぐらいジャンプすることができます。しかし、そのノミを小さなビンに閉じ込めると、蓋にぶつかってしまうため、次第に高く跳ばないようになります。ビンから外に出してもビンの高さまでしか跳ばなくなるそうです。では皆さん、このノミを再び元のように1メートル跳べるようにするにはどうすればよいのでしょうか」
ここで参加者からは、「エネルギーが出るように餌をあげる」など、様々な意見が寄せられました。果たして正解は……?
「正解は、1メートル跳べるノミの近くに置くことです。他のノミの跳ぶ様子を見ると、自分も跳べるんだなと思い、跳べるようになるそうです。人間もいろんな壁にぶつかりますが、それを避けてしまうと自分の可能性を狭めてしまうことになります。何かを極めたい、自分もそんなふうになりたいと思ったら、そういう人の近くにいくことです。そうして一緒に仕事をしたり、近くで実際にその様子を見たり、体験すると、自分も同じように成長できるようになります。可能性は誰にでもあります。皆さんも諦めないでください」
■売っているのはハンバーガーではなく、お客様の喜び
それぞれのお話に聞き入り、熱心にメモをとっていた参加者からは、打ち溶けた雰囲気のなか、「仕事をしていて辛いことは?」というストレートな質問も寄せられました。これに本音で答えいただいたEさんからは、「シェイクが溶けているとクレームがあり、シェイクを投げつけられたこともある」という辛い体験をご紹介いただきました。
「すぐに謝ったのですが、今度は謝り方が悪いと謝り方の練習をさせられました。でもこの後、そのお客様は店の常連さんになってくれたんです。クレームは自分たちの至らなさを気付かせてくれます。何が至らなかったのか、お客様にお聞きし、気付かせてもらい、次に繋げていくことで、ステップアップすることができます。何度も来店してくれるお客様に応えて、私たちも今度はこうしてあげようと自分たちで考えるようになります。出会えて本当によかったと思います。忘れられない体験です」
この話に呼応して、「自分も土下座して謝ったことがある」というAさん。「接客は、お客様の不満を喜びや感動に変えていく仕事だ」と話してくれました。
「例えば、お客様に言われる前に気付いて水を持っていくこと。そんな小さな気づかいをどれだけしてあげられるか。自分たちが売っているものはハンバーガーではなく、お客様の喜びなんです。ハンバーガーを通して、いただくお金以上に喜んでもらうことが私たちの仕事。それが分かると、その人の接客は変わってきます。お客様に喜んでもらうために、こうしよう、ああしようと、自立的に自分で動き出せるようになります」
■働く職場を見学。これなら私にもできそう!
自分たちの仕事に誇りをもち、いきいきとお話される講師の方々。その働く職場とは実際にどんなところなのでしょう。響ホールからモスバーガー庄内余目店に移動し、従業員の手作りグッズなどで飾られたアットホームな店内を見せていただきながら、ハンバーガーを参加者一人一人が注文し、店員の受け答えや動作にも注目してもらいました。また、Aさんにも引き続き輪に入っていただき、参加者からの質問に答えてもらいました。この間にもウエットティッシュを持って来てくださるなど、細やかな気づかい、「お客様の側に立った接客」を体験させていただきました。
働いた経験のない参加者にとって、調理の様子、厨房や休憩室、材料置き場など、お店の裏側を見る機会はどれも新鮮な体験でした。興味深そうに見渡し、見入り、気になるところを質問する参加者も見受けられました。
接客の仕事を希望しない参加者にとっても、実際に働いている方の話を聞く機会はとても貴重なものでした。堅苦しくない形式、和やかな雰囲気の中で、どんな仕事にも共通する部分があること、「辛いこともあるが、働くことが楽しい」という講師の本音をうかがうことができ、働くことを身近に感じてもらえたと思います。
実際に、Aさんが強調されていた「可能性を諦めないで」というエールに応えるように、本事業の後、モスバーガー鶴岡店、酒田店にご協力いただいた「短時間・短期間お仕事体験事業」には、本事業参加者のほとんどが参加しました。そして、その中から1名の方が、こういう仕事なら自分でもやれそうだ、続きそうだと正式に就労し、現在も元気に働かれています。事業にご協力いただいたAさんも温かく見守っているそうです。
「初めは人と話すのが苦手な様子でしたが、少しずつ自分でもできるんだと自信をつけられています。忙しくて毎日大変でしょうと声をかけると、自分だけじゃない、みんなも同じだからと、前向きに話してくれました。他の皆さんにも、ぜひ自分に合った仕事に向け、はじめの一歩を踏み出されることを期待しています」
モスバーガー庄内余目店
〒999-7781 山形県東田川郡庄内町余目滑石42-1
電話/0234-42-3824
株式会社三栄本社(山形市)が運営するモスバーガーのチェーン店舗。店内は木目調の落ち着いた雰囲気で、店員手作りのディスプレイなどが居心地の良い空間をつくっている。平成17年7月にオープン。
なお、モスバーガーは日本生まれのハンバーガー専門店。1972年の1号店「成増店」オープン以来、「おいしさ」にこだわり、日本人の好みにあった商品の提供を掲げている。
株式会社三栄本社(代表取締役社長 瀬戸口 三郎)
〒990-2462 山形市深町1-9-10
電話/023-644-2616
総合外食産業として、「美味しさと安心をみなさまへ 」をキャッチフレーズに、モスバーガー、なか卯、とん八 、昭和ホルモン亭、天霧、どんQなど、山形県内26店舗を展開。内、モスバーガーは11店舗で、2009年夏には12店目を新庄市にオープン予定。